以下の文章は、2019年2月7日に、一般財団法人日本原子力文化財団からの依頼で自治体の方向けに当研究所所長の渡辺が講演した「災害時の情報発信のあり方」より一部を抜粋し、再構成したものである。


 

■誰もが陥るデマの穴

災害が起こるたびにいろいろなデマ情報が流れる、ということは多くの皆さんがすでにご存知のことかと思います。最近ではフェイクニュースという言葉も一般的になり、その存在が報道されることも増えてきています。フェイクニュースのようなデマ情報や嘘の情報を信じてしまうのは一部の情報弱者だけで、自分は大丈夫だと思っている方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。

今日のテーマは「我々はそもそもデマが大好きな生き物である」ということを、統計データを使って理解することから始めて、なぜ我々はデマを信じてしまうのか、そしてさらに悪いことになぜデマを拡散してしまうのかといった点を、「心理学」「脳科学」「技術の進化」という三つの側面から考察していきます。そして最後に、どうやってデマ情報を見分ければいいのかを考えてみたいと思います。

 

■デマの定義

小学館のデジタル大辞泉によると、デマを「政治的な目的で意図的に流す、扇動的かつ虚偽の情報」と定義しています。これはデマの元々の言葉であるデマゴーグがそのような意味で使われており、今の言葉で言うといわゆるフェイクニュースと同意語と考えられます。これに加えてもうひとつ、「流言飛語」という意味もあります。災害時に流布するデマには政治的な内容も含まれますが、どちらかというとその多くは政治的な意味合いがそれほど強くない「流言飛語」にあたるものと我々は考えています。

 

■デマの4分類

過去に起こった大災害時の流言飛語(=デマ)は多岐に及びます。2011年の東日本大災害時には、我々が把握している比較的規模の大きいものだけでも15を超える嘘・デマが拡散しています。その後の熊本地震(2016年)、大阪北部地震、西日本豪雨、北海道胆振東部地震(いずれも2018年)でもたくさんのデマが拡散しましたが、こうしたデマは、大きく四つに分類することが可能です。

まず一つ目は、いわゆる「ネタ」です。動物園から猛獣が逃げ出したといった類の、事実と異なる面白半分で投稿される偽情報を指します。特に有名なものは、2016年の熊本地震の時に投稿された「地震のせいで動物園のライオンが放たれた」という偽情報です。当初は「ネタ」として拡散したものの、本当だと信じてしまった人も多く、最終的には偽計業務妨害の容疑で逮捕者が出るほど拡散(後に嫌疑不十分で釈放)したこともあり、ご存知の方も多いかと思います。

二つ目は「犯罪が起きる」というものです。有名なものは、2018年の西日本豪雨で出回った「豪雨で立ち入り出来なくなった地域にレスキュー隊の服を着た泥棒が大量にいる」という偽情報です。こちらも大いに拡散し、最終的に広島県警の公式Twitterアカウントがデマ情報に惑わされないで!という発信しなければいけないほどの事態となりました。

三つ目は「災害がもう一回来る」というものです。東日本大震災時の「某石油会社の施設で爆発が起こった結果、有害物質の雨が降る」というものや、2018年の北海道胆振東部地震の際には自衛隊の人からの情報として「地鳴りしているから就寝時安全確保して!」という情報が出回りましたが、どちらも偽の情報でした。地震発生前に現れるという「地震雲」なども同様で、科学的な根拠が無いにも関わらず、災害と関連付けて出回る類の偽情報も、これに含まれます。

そして分量として一番多かったのが、最後にご紹介する「ライフラインが止まる」といったタイプのものでした。胆振東部地震の際に拡散した、NTTで働いている方からの情報として「携帯電話が使えなくなる」、もしくは水道局の局長からの情報として「水道が止まる」は言うに及ばず、東日本大震災時に関西地方で拡散した「関西電力が関東に送電するから関西地方でも節電を呼びかける」や大阪北部地震の「電車が脱線している」などのデマはここに含まれます。弊社で調べたところ、全てのデマの4割以上はこのタイプのデマでした。

 

■デマの拡散力

300年ほど前に活躍した作家ジョナサン・スウィフトは「ガリバー旅行記」を書いた人物として有名ですが、このスウィフトが残した言葉に「嘘はすぐ広まり、真実はその後ろで立ち往生する(Falsehood flies, and the truth comes limping after it)」というものがあります。これはつまり「嘘はすぐ拡散するけれど、真実はそれほど早くは広まらない」ということを、自らの経験を基に表現したものと考えられます。

それから300年以上が経過した現在、MITのシナン・アラル教授を中心としたグループが2006年から2017年までの12年間においてTwitterで450万回以上ツイートされた、12万5000以上のストーリーを分析した結果、このスウィフトの箴言は科学的に証明されることとなりました。つまり、真実の情報より間違った情報の方がよりリツイートされやすいし、その結果拡散もしやすいということがわかったのです。

まずは真実とデマでは拡散の規模がどのくらい違うかという話からはじめましょう。真実のツイートの場合、1,000人以上に拡散されることはほぼないという結果でしたが、デマやフェイクニュースの場合、その拡散力の高さが上位1%のツイートは10万人に拡散していたという対照的な結果が出ました。

また、情報が1,500人程度に拡散するスピードは、真実の拡散スピードを1とした場合、デマツイートは6倍の速さで拡散することがわかりました。

さらにアラル教授らは、ツイートがどんどん下の階層に浸透していく、つまり数珠繋ぎに起こる複層化現象がどのくらいの時間で起こるのかも調べました。10層到達にかかる時間は、デマツイートが真実と比較して20分の1というものすごい速さでツイートされるということも判明しました。

つまりスウィフトがいみじくも300年前に言い当てていたように、デマは真実に比べて早く、深く、大勢の人に拡散するということが大規模調査により立証されたのです。

 

■デマ拡散の犯人は誰?

ではいったい誰がデマを拡散しているのでしょうか?調査開始の時点では、二つの説がありました。

一つはボットです。ボットというのは「ロボット」から来ている言葉で、機械による自動発言システムを指します。さまざまなタイプのボットがあるのですが、その時問題になったのはニュースを自動的に拾ってきてはTwitterに投稿するというプログラムです。このプログラムがデマを拾ってきてはどんどん拡散しているのではないかという説です。

もう一つはインフルエンサー。フォロワーをたくさん抱えているインフルエンサーが、デマを発言/リツイートして大量のフォロワーに拡散させているのではないかという説です。

アラル教授たちはこれについても調べました。まずはニュースを拡散するボットですが、このボットには真贋を判断する基準がないので、偽の情報も真実の情報も同じ程度に拡散することがわかりました。つまり真実よりもデマを優先的に拡散しているわけではないので、デマが拡散しやすい理由として、ボットは不適当であるというのがわかります。

ではもう一方のインフルエンサーはどうでしょうか。デマを拡散した人々を、事実を拡散する傾向の高い人々と比べたところ、デマを拡散する人は他人との繋がりも少なく、フォロワー数もフォローしている数も少なく、公式の認証済みのアカウントも少なく、Twitter歴も短いことが判明しました。つまり彼らはTwitter上において基本的に活発ではない、一言でいうと影響力の弱い人と言えます。

逆に言うと、インフルエンサーと呼ばれる影響力の高い人は事実の拡散に貢献している人ということになります。これは考えてみると当然で、影響力の高い人は多くの人から見られているので、嘘を書いたらすぐに指摘される(または叩かれる)可能性が高く、そんなに間違ったことを書き込むのは難しいと容易に推測されます。

それでは、デマを拡散している犯人はいったい誰なのか。それはいわゆる「普通の人達」です。影響力の少ない人、いわゆる普通の一般人が、多くの嘘を拡散させてしまっているということがわかったのです。これはアメリカでの調査結果に基づく結論ですが、おそらく日本も同様だろうと我々は考えています。

 

第2回「デマの拡散メカニズム、なぜデマを書き込むのか」に続く。